片親疎外の病気
片親疎外を解説した講演
- 「子どもに会いたい親 子どもに会わせたくない親」
平成26年1月17日 福岡市 青木聡大正大学教授
子どもの深刻な片親疎外の病気とは
~「離婚で壊れる子供たち」(平成22年2月20日発行、光文社)より~
(著者:棚瀬一代・神戸親和女子大学発達教育学部教授、臨床心理士)
- 「パパ」「お父さん」との呼びかけには、自ずと父親への愛情と敬意が込められる。母親が子供に「パパ」「お父さん」と呼ばせないことには、母親の意識的ないしは無意識的な悪意を感じる。その血の半分を受け継ぐ子供たちに、父親に対する尊敬の念をもたせないように仕向けるこうした行為もまた、子供たち自身の自尊感情を深く傷つけていく行為であり、「心理的虐待行為」であるといえる。
- 監護親が子供たちと別居親との面会交流に理不尽に抵抗している点について、監護親は配偶者である別居親に対する思いと、子供たちの別居親に対する思いが、別であるかもしれないということへの想像が微塵も働かないほどに、親子の境界がなくなってしまっている。
- こうした監護親と子供の境界のない癒着した状態は、子供の思いへの共感力の欠如であり、子供の思いを自分の思いで支配し、子供を監護親の思いに服従させてしまう行為である。これは、心理的虐待に該当する行為であり、片親疎外の病気である。
- 深刻な片親疎外の状況に置かれた子供たちは、監護親の愛情を失わないために大きな代償を払っている。
まず第一に,実は誰よりも自分たちを愛している父親を、自分たちを迫害する恐ろしい人物であると信じて、その姿を視界に入れることすら拒否し、泣き叫ぶ姿に顕著に表れているように「認知の歪み」である。こうした認知の歪みは、パノライア的パーソナリティとして固まっていく可能性がある。
支配的な大人による受動的な子供に対する自らの妄想体系の押しつけ行為は、「二人組精神病」ないし「共有精神病性障害」として取り上げられている。しかしこうした「認知の歪み」ないし「共有された妄想的信念」は、通常,支配的影響力をもつ人から切り離された場合には、減少または消失するとも言われている。
第二の代償は、監護親に見捨てられないために、監護親の思いを100%鵜呑みにして生き結果として「無自己」で生きることを強いられている点であるこれは、「支配-服従関係」に生きることを強制するものであり、明らかに「心理的虐待行為」である。乳幼児期から「無自己」で生きた者が長じたときに、深刻な抑うつ感や希死念慮といった悲惨な後遺症を引きずることは、よく知られていることである。
離婚後の親子交流と子どもの発達について
~平成22年5月28日神戸新聞 「ずっと家族がほしかった」棚瀬一代・神戸親和女子大学発達教育学部教授インタビューより~
2009年の離婚件数は約25万件。過半数に未成年の子どもがいる。
別居親(多くの場合父親)と子どもとの面会交流をめぐり元夫婦が対立するケースが増えている。
少なくとも隔週末会える米国と違い、日本は多くても月1回程度。全く会えないこともある。
これまで子どもの発達への離婚の影響はあまり論じられなかった。実際には「原因は自分にある」と思い込んで自尊感情が低くなり、数年後に鬱状態になったり、成長して結婚しても家庭の築き方が分からなかったりする。別居親と頻繁に会うことは、子どもの中に父親(母親)像をしっかり根づかせる。人格形成上、非常に重要なことだ。
単独親権制度の日本では親権は父か母のどちらかだ。
民法には面会交流の規定はなく、親権を持たない親が面会を求めても、親権者が強く拒めば難しい。となると泣き寝入りか、家庭裁判所に申し立てるしかない。子どもが「会いたくない」と言う場合もあるが、それは親権者との生活による意識的あるいは無意識的な〝洗脳〟ではないだろうか。親権は単独か共同を選べるようにすることと、面会を徹底することが子どもの発達上の問題を防ぐことになる。
「双方が子どもにかかわるのは混乱の元」という考えが根強いが、虐待などの例外を除き、親子関係は継続すべきだ。
米国では面会交流権が法的に認められている。
共同親権と単独親権を選べる米国などでは「双方と会うことが子どもの福祉にかなう」という視点がある。また裁判所が、相手への不信感などの心理に焦点を当てた親のグループセッションを開き、面会を拒む心理的な障壁を取り除くことに努めている。相手に抱く否定的感情の根源を探る試みで、離婚後の葛藤を和らげる効果もある。
司法統計によると、面会交流に関する調停・審判は08年度は審判1020件、調停6261件。ここ10年で4倍近くに増えた。
日本の裁判所が用いる親の教育プログラムは、離婚が子どもに及ぼす影響を説くDVDを見せる程度。相手への復讐として子どもにわざと会わせない人や「二度とかかわりたくない」と養育費の受け取りを拒否する人もいる。子どもの福祉に著しく反すると知ってほしい。
家裁の調停委員だったころ、「子どもに会いたい」と訴えたある父親に、同僚の高齢男性が「自分のころなら考えられない」と口にしたことがある。育児参加による男性の意識変化は、面会交流にも現れている。
幼い子どもにも離婚の理由を説明するのが米国では当然視される。
離婚後、父親に引き取られたある小学生の話をしたい。9歳の彼女は「ずっと不安な気持ちが消えず、勉強にも遊びにも集中できない」と話し、「母親に会えない1カ月が長い」とつらそうだった。その後、彼女は勇気を出して、不安の原因だった両親の離婚の理由を尋ねた。
単独親権を選ぶにしても共同養育は徹底すべきで、子どもが幼くても離婚の理由をきちんと説明すること。そうでないと突然親がいなくなる事態を子どもはのみ込めない。
結婚生活が不幸なら離婚もやむを得ない選択だが、子どもとの関係はずっと続く。「離婚は縁切り」という時代は終わったのだから。
親子引き離しの影響
子供は引き離しによって、戸惑い、混乱し、激しく悩みます。場合によっては、うつ状態になったり、チックや脱毛など医学的身体反応を示したりすることもあります。これらのように、片親から引き離されることによって生じる子供の問題を総称し、片親引き離し症候群PASとういう言い方をすることがあります。そのようなとき、えてして監護親は、このような状態になったのは相手(非監護親)のせいだ。と感情的に態度を硬化させてしまいがちなのですが、たいていの場合、子供の観点は異なります。子どもにとっては、どちらがいいというより、むしろ本来2人いるはずの親が喧嘩し、いつの間にか親がひとりになってしまったことに対する混乱が、このような症状になっている可能性があります。「片親引き離し症候群」という考え方は、まだ日本では十分議論が尽くされた概念ではありません。しかし、これからの面接交渉の在り方を考えるうえで、大事な概念となるかもしれません。
面接交渉において、いちばん大事にしなければならないのは、やはり子どもの気持ちです。冒頭でも触れたように、別居や離婚で両親はお互い他人になっても、子どもにとって両親は永遠に両親であることに、変わりはありません。子どもの気持ちを配慮したうえで、なるべく非監護親とのつながりを維持していくことが大事であると、考えます。
(東京家庭裁判所家事第三調査官室 主任家庭裁判所調査官 町田隆司氏)
面会交流の有無と子どもの自己肯定感/親和不全の関連について
~「面会交流の有無と自己肯定感/親和不全の関連について」(青木聡・大正大学人間学部 臨床心理学科教授/発表論文より)
面会交流の有無が子どもに与える影響、家族の現況が子どもに「自己肯定感」、「親和不全」を与える影響などについて、実証データを用いて定量的に分析されています。
家族の現況、面会交流の有無が子どもにどのような影響を与えるか、日本ではこれまで定量的な分析がなかったため、家裁等において今後の面会交流のあり方の判断に大きく寄与するものと思われます。
論文の中で、家族の現況、面会交流の有無が子どもの「自己肯定感」、「親和不全」に与える影響について下記のように述べられています。
- 「親が離婚した家族」の子どもは「両親のそろっている家族」の子どもよりも、「自己肯定感」が低く、「親和不全」が高いことが明らかになった。
- 「面会交流なし」の子どもは「両親のそろっている家族」の子ども、そして「面会交流あり」の子どもよりも、「自己肯定感」が低いことが明らかになった。
- 「面会交流なし」の子どもは「両親のそろっている家族」の子どもよりも、「親和不全」が高いことが明らかになった。
「片親疎外」に関する最新情報
青木聡・大正大学教授が、「片親疎外」をメインテーマに開催されたAFCC(国際家庭裁判所/調停裁判所協会)第47回大会の参加報告として「片親疎外」に関する最新情報を大正大学研究紀要(pp.169-176)にまとめられています。
(学術論文)「片親疎外」に関する最新情報 -AFCC(Association of Family and Conciliation Courts)第47回大会(2010/6/2-5)参加報告
離婚後の単独親権制度を採用する日本において、高葛藤の離婚家族で起きる「片親疎外」1)が深刻な問題となっている。日本では「離婚は縁切り」とみなす伝統的家族観や「別居親は遠くからそっと見守るのが美徳」とする社会的通念が根強いためか、離婚後は「ひとり親」で子どもを育てていくというイメージが世間に定着していると言っても過言ではなく、文字通り「夫婦の別れが親子の別れ」になってしまう場合も多い。
離婚後だけでなく、高葛藤の別居にあたって一方的に子どもを連れ去り、もう片方の親と子どもの交流を断絶する「連れ去り別居」が頻発していることも深刻な問題である。
一方、欧米諸国では『児童の権利条約(児童の権利に関する条約)』(1990)の批准と前後して、離婚後の共同養育(共同監護・共同親権・共同親責任)制度が整備されている。子どもの健全な成長のために、両親は離婚後も「親子不分離の原則」(第9条第3項)や「共同親責任の原則」(第18条第1項)に則した共同養育の「義務」を負うのである。実は、日本も『児童の権利条約』は批准しており(日本の批准は1994年)、協議離婚の際に子どもと別居親の面会交流について定めることを提案する民法改正試案も公表されている(法務省、1994、1996)。しかし、いまだに民法改正に至っておらず、離婚後の共同養育制度の実現には程遠い現状と言わぎるを得ない。
現在の民法では面会交流に関する明文化された規定が存在しないため、離婚後ないし別居中の「片親疎外」は事実上野放しになっており、離婚紛争時の子どもの「奪い合い」は次第に熾烈化している(棚瀬、2010)。
実際、『司法統計年報』(2008)を参照すると、平成20年度の面会交流紛争の事件数は10年前と比較して3倍以上に急増しており(表1)、「片親疎外」への対策が喫緊の課題といえる。ところが日本では、専門家のあいだでも「片親疎外」の問題はほとんど知られていない。そこで本稿では、「片親疎外」を大会テーマとして行われたAFCC第47回大会での議論を報告し、「片親疎外」をめぐる最新の話題を紹介したい。
※詳細は論文を参照ください
更新 2013-07-07 (日) 12:40:23
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